火災保険における独身世帯バイアスを考える

最近火災保険を更新しました。2年前に家を購入し、人生で初めて火災保険を契約しましたが、なんとなく賃貸時代の習慣で2年間の保険にしました。最低限の補償で良いので、ネット申し込みで評判の良かったソニー損保にしましたが、見積もり時に気になったことがあります。保険更新、かつソニーフィナンシャルグループが再上場を果たしたこのタイミングで、火災保険(の見積もり)における、独身世帯バイアスについて考察してみました。

目次

ソニー損保の火災保険見積もり

独身である限り、20代と40代で家財の保険金額は同じ

ソニー損保の火災保険を申し込む際、詳細の見積もりのため住所、家屋のタイプ(一軒家/マンション)、専有面積、建築年などの情報を入力して進むと、保険金額(補償額)が自動的に算出されます。家財の補償はオプションとなっており、家族構成として、“大人(18歳以上)”、”子ども(18歳未満)”の人数、世帯主の年齢を選ぶと算出されます。2年前も今も40代後半の私は自分に当てはまるラジオボタンを選び、保険金額を算出してみました(当時の金額は不明ですが、現時点で”100~390万円”の範囲)。

この際、興味本位で20代を選んで再算出したところ、まったく同じ金額が算出されて非常に驚きました。試しに他の全年齢層を試したところ、独身である限り、すべての年齢層が同じ保険金額となりました。

独身世帯以外は年齢とともに保険金額が上がる

こうなると確認せずにはいられないのが、独身ではない場合の保険金額。ちなみに、”独身”と書いていますが、正確には独身かどうかを選ぶわけではなく、18歳以上の大人が1人、と選びます。これはニアリーイコール独身世帯と捉えて良いかと思います。同様に既婚かどうかを選ぶ項目はなく、18歳以上の大人が2人以上、という選び方で家財の保険金額比較してみた結果がこちらです(2025年9月30日現在、以下の見積もりもすべて同様)。

大人(18歳以上)2人の家財保険金額、世帯主の年齢別
  • 27歳以下:100~680万円
  • 28~32歳:100~940万円(上限額:27歳以下を基準に1.4倍)
  • 33~37歳:100~1,330万円(同2倍)
  • 38~42歳:100~1,630万円(同2.4倍)
  • 43~47歳:100~1,850万円(同2.7倍)
  • 48歳以上:100~1,950万円(同2.9倍

比較のため、ひとり親パターンも見ておきましょう。

大人(18歳以上)1人+子ども(18歳未満)1人の家財保険金額、世帯主の年齢別
  • 27歳以下:100~610万円
  • 28~32歳:100~870万円(上限額:27歳以下を基準に1.4倍)
  • 33~37歳:100~1,260万円(同2.1倍)
  • 38~42歳:100~1,560万円(同2.6倍)
  • 43~47歳:100~1,780万円(同2.9倍)
  • 48歳以上:100~1,890万円(同3.1倍

なぜか大人2人パターンより、ひとり親パターンの方が年齢層によるギャプが大きいという結果に。

翻って、我らが推定独身者パターン。

大人(18歳以上)1人の家財保険金額、世帯主の年齢別
  • 27歳以下:100~390万円
  • 28~32歳:100~390万円(上限額:27歳以下基準の1倍)
  • 33~37歳:100~390万円(同1倍)
  • 38~42歳:100~390万円(同1倍)
  • 43~47歳:100~390万円(同1倍)
  • 48歳以上:100~390万円(同1倍

虚しさしかない・・。25歳で一人暮らしを始めたとき、私の年収は額面で300万円台でした。手取り20万円台の給料から8万円の家賃を払い、LOFTで安い家具を買って慎ましく暮らしていたあの頃。そこから20年超、浮き沈みしつつキャリアを築き、年収も上がり、合皮だったソファは本皮になり、自分なりに良い暮らしにアップデートしてきた気でいた・・が、そんなこと保険会社は一ミリも評価していなかった!独身である限り、私の家財の価値は25歳の小娘だった頃と同じだと。ちなみに保険金額算出の根拠として、こちらの簡易評価表がリンクされていました。

家族や友人など誰か一人追加、すなわち独身者二人で暮せば、保険金額の上限は1,950万円ですが、一人でいる限り390万円。一人あたりの上限額にして975万円:390万円(2.5倍)の差が生じます。

一人暮らしとはいえダイニングテーブルは4人用だし、賃貸の頃からソファは2.5人掛けだし、二人になるとそんなに家財って増えるものか?と文句は尽きませんが、FPとして、この要因を冷静に考えてみました。

大数の法則について

保険業界に詳しい方はもちろん、FPの勉強をしたことがある方なら、保険が“大数の法則”をもとに成り立っていることをご存知かと思います。理系ではない私が自分なりの言葉で説明すると、少ないサンプル数からは予測できない事象も、膨大なデータがあれば一定の法則が見いだせるという統計学の考えです。仕事でデータ分析を行う方は、サンプル数が少ないほど、結果から読み取れる傾向の信憑性も低いという概念で理解されているかと思います。

そうなると、この明らかな独身世帯バイアスも、実は保険会社が保有するビッグデータに基づく、統計的な事実をベースにしているかもしれません。現在11月のCFP試験に向けて保険の勉強をしていますが、CFP試験の例題でも、家財簡易評価表において、独身者の家財価値は年齢差なく一律、かつ非常に低く評価されていました(虚しい・・)。

データをもとにしているのであれば、他の保険会社でも同様の傾向があるはずです。検証のため、火災保険のランキングなどを参考に、他の保険会社をいくつか見てみました。

他社の見積もりをチェック

チューリッヒ

まずは”火災保険”と検索したら、ソニー損保と並んで検索結果上部の広告に出てきたチューリッヒ。こんなビッグワードで上位に出すには相当コストがかかってるので、火災保険に力を入れていると思われます。ソニー損保と同様に、家屋のタイプや専有面積、建築年を入れたあと、契約者の生年月日と家族の人数を入れましたので、同様のデータをもとに算出されていると言えます。結果はこちら。

大人(18歳以上)1人の家財保険金額、世帯主の年齢別
  • 27歳:300~500万円
  • 48歳:300~1,300万円(上限額:2.6倍

差があります!ソニー損保と違い、生年月日を指定しなければいけないため、最も年齢差が大きいところで比較していますが、チューリッヒは20歳超の年齢差に意味があるようです。参考までに大人2人パターンも見てみます。

大人(18歳以上)2人の家財保険金額、世帯主の年齢別
  • 27歳:400~700万円
  • 48歳:400~1,900万円(上限額:2.7倍

二人になったことで下限も上限も上がっていますが、年齢によるギャップは独身と変わらないレベル。ちなみに家財の保険金額、最上限は2,000万円とのこと。チューリッヒの家財の保険金額算出については、こちらのページ“契約者年齢”という言葉もあるので、独身でも年齢によりプラスの評価をしてもらえているようです。390万円一択の低評価を受けたソニー損保に比べると、ありがとう!と叫びたくなる場面です。

ただし、実際の保険料も比較するため、現在ソニー損保で契約しているのと同じ保険金額、近いオプションを選択したところ、保険料はソニー損保より4,000円ほど高くなりました。

SOMPOダイレクト

続いてSOMPOダイレクト。SOMPOグループで、代理店を通さないネット申し込みだと、SOMPOダイレクトの“じぶんでえらべる火災保険”になるようです。家屋のタイプや専有面積、建築年を入れたあと、18歳以上/未満の家族構成と、世帯主の年齢を入れました。結果はこちら。

大人(18歳以上)1人の家財保険金額、世帯主の年齢別
  • 27歳:100~330万円
  • 48歳:100~1,410万円(上限額:4.3倍

こちらも差があります!しかも年齢差による上限のギャップが大きいですね。以下は大人2人パターン。

大人(18歳以上)2人の家財保険金額、世帯主の年齢別
  • 27歳:100~500万円
  • 48歳:100~1,580万円(上限額:3.2倍

下限は変わらず、上限は年齢により上がっているものの、ギャップは独身より小さいという結果に。SOMPOダイレクトの家財簡易評価表を見ると、独身世帯は表に含まれてすらいない始末で若干傷つきますが、大人1人分の減算で計算されているようです。

そして保険料ですが、大手の系列なので高いかと思いきや、ソニー損保より2,000円以上安いです。これは意外でした!

日新火災

次は日新火災のお家ドクター火災保険。家屋のタイプや専有面積、建築年を入れたあと、18歳以上/未満の家族構成と世帯主の年齢を選びましたが、25歳~50歳の5歳刻みとなっています。結果はこちら。

大人(18歳以上)1人の家財保険金額、世帯主の年齢別
  • 25歳前後:300万円
  • 50歳前後:300万円(目安額:1倍

来ました、同額パターン!ただし、こちらは上限額ではなく目安額ですので、自分で300万円以上にすることが可能です。見積もりとしては年齢差を考慮しないものの、自由度は高い設計。

大人(18歳以上)2人の家財保険金額、世帯主の年齢別
  • 25歳前後:500万円
  • 50歳前後:1,500万円(目安額:3倍

大人2人パターンでは、目安額が年齢により3倍になるという結果に。家財簡易評価表を見ると、独身世帯は25歳も50歳も310万円一択。25年かけて、少しの財も築けないと判断される物悲しさ・・。

保険料については、現契約と同じ3年が選べなかったため比較しづらいですが、5年契約の3年分で比較すると、3,000円ほど高い結果になりました。

SBI損保

最後にSBI損保です。こちらは他の会社と異なり、年齢を入れる項目がありませんでした。世帯人数は入れたものの、1人、2人どちらを選んだ場合においても、上限額が1,050万円となり、家族構成も考慮されていません!

建物の保険金額上限は他社よりかなり低く、同額に合わせることができませんでしたが、一番近い金額で保険料を算出したところ、ソニー損保より3,000円程度安く、今回の見積もりの中で最安値となりました。ただ建物の保険金額が違うので、比較は難しいですね。算出方法がまったく違う、という点は面白いです。

考察結果

結論として、独身世帯の家財価値の評価方法は、保険会社ごとに異なるようで、大数の法則的なものはあまり関連してなさそうです。そもそも独身で家を買う人の絶対数が、家族持ちで家を買う人よりも少なく、データ量が十分でない可能性もあります。

2020年の国勢調査によれば、単身世帯の比率は全体の38.1%。ちょうど今2025年の国勢調査が実施されていますが、今後は40%超えることが見込まれます。独身世帯の増加に伴いデータ量も増えれば、いつか明確な傾向が見えてくるかもしれません。

ちなみに、私が家財の保険金額をいくらにしたかと言うと、300万円です。冷静に、我が家の家具、家電、洋服や靴などの再調達価格をざっと算出し、上限金額の390万円にすらしない結果となりました!文句言う割に大したものは持ってない笑

ただ、独身世帯でも価値の高い家具、家電を持っている方もいるでしょうから、一律上限300万円台、は人によっては保険金額として不十分かと思います。この記事を書きながら、なぜ保険の更新前にこの比較をしなかったか後悔していますが、いま選ぶならSOMPOダイレクトで契約すると思います。やはり独身だからといって、一律に低評価をされるよりは、保険金額を上げる余地があるサービスを選びたいです。若い方でも同様かと思います。

複数サービスの見積もりは面倒ですが、皆さんもご自身にあった火災保険選びのために、保険金額上限の違いはぜひご確認いただくと良いかと思います。

最後に、ソニーフィナンシャルグループの上場について。ソニーバンクウォレットも愛用し、ソニー金融サービスのカスタマーである私は、株を購入しようと上場日の値動きを見ていました。通常のIPOと違い、“パーシャルスピンオフ”という方法で上場したため、ブックビルディングも公募価格もない上場でしたが、初値がついて以降絶え間なく取引されていて、見てるだけで面白い。ちょうど最安値となった価格で注文も出したのですが、残念ながら約定せず。引き続き値動きを見ながら、購入を検討したいと思います。株主総会などで、サービスについてのフィードバックを届ける機会があることも、株主のメリットの一つですから

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